僧帽弁閉鎖不全症② 症状とその意味、重症度について知っておこう

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今回は、心不全の症状についてお話いたします。まずは、下の表をご覧ください。ACVIM(American College of Veterinary Internal Medicine=アメリカ獣医内科学会)が定めた心不全のステージ分類です。

ACVIMによる心不全のステージ分類
ステージ StageA StageB StageC StageD
サブステージ   1 2    
定義 心不全兆候がない心不全リスク犬種(キャバリア・シーズー・チワワなど小型犬) 心臓の形態異常はあるが、症状のない動物 心不全症状あり(現在あるいは以前) 通常の薬ではコントロールできない心不全
心拡大なし 心拡大あり
症状 なし なし なし 左心不全兆候 末期的症状
診断 なし 心雑音あり
心拡大なし
心雑音あり
心拡大あり
身体検査
レントゲン
心エコー
血液検査
身体検査
レントゲン
心エコー
治療 なし なし 必要になることも(内服薬) 必要(内服・注射・点滴) 緊急的治療
酸素療法
食餌 通常食 通常食
肥満・削痩の予防
軽度の減塩食
肥満・削痩の予防
中等度の減塩
適度にたんぱくを取る(体重減少させない)
注意事項
診察頻度
6歳以上では僧帽弁閉鎖不全症などに要注意 6~12か月ごとの検診 3~6か月毎の定期検診 1~3か月ごとの定期検診と必要に応じた受診 命の危険性高い

参考:http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1939-1676.2009.0392.x/pdf

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ステージC以降で初めて症状が出て来る

この表を見てもらうとわかりますが、犬の心不全の症状はステージCになって初めて出て来るのです。

ステージAは単なる犬種としてのリスクなので心不全とは言えませんが、心臓の変性が始まってくるステージBでは心不全兆候は見られないということです。ただし、ステージB2から治療を開始した方がいいという意見もあるため、症状が出ていなくても心不全のリスクが高い小型犬では、6歳以上になったら定期的な検診を受けておいた方がいいでしょう。最低限1年に一度はワクチンやフィラリアの検査の時に聴診をしてもらいましょう。

心雑音の意味

心雑音は、「正常な心音以外に聞こえる心臓からの音」であり、「心臓内の血液の乱流」によって起こります。前回・前々回の記事でもご説明しましたが、心臓は血液を一方向に流す貯めのポンプであり、血液は一定方向にしか流れないのが普通です。その場合は、心臓からは弁が定期的に閉まる「トントン」という音が出ます。これが、「心音」です。

一方、心雑音は心音の間に聞こえる「ザッザッ」などという音であり、血液の流れが乱れたときに聞こえる音です。つまり、心雑音が聞こえるというのは、心臓の中で血液が一方向に流れていないという証拠なのです。そして、この音が僧帽弁領域(左胸の中央辺り)で聞こえると僧帽弁の辺りで血液の乱流が起きているという意味になるので、僧帽弁閉鎖不全症の可能性が高くなります。

いぬのきもち

ステージCの症状には、初期症状から重度の症状までさまざまある

症状が出るのはステージCからですが、その中にもまだ軽度の症状で日常に支障のないものから、命の危険のある重度の症状まで様々あります。まずは心不全の初期症状に気付くこと、それから、緊急性があるかどうかの判断をすることが重要です。

比較的軽度の症状と緊急性の高い症状にわけて考えてみましょう。

前回の記事で、僧帽弁閉鎖不全症は

・左心房に戻る血液が溜まってしまう(左心房うっ血、肺うっ血)

・左心室から全身に回る血液が少なくなる(心拍出量の低下)

という2つの病態があるとご説明しましたが、この2つの病態によって症状が出てきますので、前回の記事と合わせて考えてみてくださいね。

比較的軽度の症状

運動不耐性

少し運動しただけで息が切れてしまったり、動こうとしなくなる症状が「運動不耐性」ですが、これは主に心拍出量の低下が原因です。

僧帽弁閉鎖不全症で、左心室⇒左心房への逆流があると、左心室から全身へ行く血流が減ってしまいます。すると、全身へ運べる酸素が少なくなってしまうため、息が切れたり疲れてしまって動けなくなるのです。

人でも運動をすると、心臓がバクバクいうのはわかると思います。それは、酸素を必要とする全身の組織に十分な酸素を回すために心臓が頑張って動くためです。安静時に比べて、運動時には酸素がたくさん必要となり、心拍出量が上がるのです。

僧帽弁閉鎖不全症では、心臓が頑張って働いても左心室から左心房への逆流が起きてしまうため、心拍出量が上がらないのです。安静時よりも運動時の方が心拍出量はわかりやすく、運動時のみにこのような症状が出て来るのです。

運動不耐性は僧帽弁閉鎖不全症の代表的な初期症状です。心当たりのある飼い主さんは一度動物病院で聴診をしてもらった方がいいでしょう。

咳も比較的初期に出てきますが、咳が出る原因は大きく2つに分かれ、時に危険な咳もあります。

乾性の咳

「ケッケッ」という乾いた咳を乾性の咳(乾性発咳)といいます。

この咳は、心臓が拡大して気管支を圧迫したときに出ると言われています。僧帽弁閉鎖不全症では、左心房に血液が溜まって(左心房のうっ血)、左房圧の上昇や左房拡大という状態になります。左心房は気管のすぐ下に存在するため、左心房の拡大が起こると気管が押されて刺激になって咳が出ます

他に何も症状がなくても、6歳以上の小型犬で夜だけ乾いた咳をしているという場合は僧帽弁閉鎖不全症の初期症状の可能性もあるので、早めに動物病院で診てもらうようにしましょう。

自律神経の兼ね合いで、心不全の咳は夜に出ることが多いです

湿性の咳

乾いた咳ではなく、「ゴホゴホ」いうような水っぽい咳が湿性の咳であり、こちらは要注意の咳になります。

僧帽弁閉鎖不全症で左房拡大が重度になると、肺にも血液が溜まる肺うっ血が起こります。肺のうっ血があると、その血管から水分が肺の中(肺胞と言われる酸素と二酸化炭素を交換する部分)に水が染み出てくる「肺水腫」になってしまいます。本来水が存在しない場所に水が入ってきたため、体は水を出そうと咳をします。これが湿性の咳になります。

湿性の咳と乾性の咳を見極めるのは時に難しいですが、湿性の咳では、頻度が高く、元気の低下や呼吸が速いなどの全身症状を伴うことが多いので、他の症状にも注意してください。湿性の咳が出ているときには、無理に押さえつけたり、トリミングなどのストレスがかかると一気にステージDへ移行してしまうことがあるので、要注意が必要な症状です。できる限り早く動物病院で診てもらう必要があります。

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中等度の症状

呼吸数の増加

心不全の動物で、お家で必ずチェックしてほしいのが「安静時の呼吸数」です。動物病院へ来るとどうしても緊張によって呼吸が早くなってしまうので、お家での呼吸数の情報は非常に重要です。

呼吸数はお腹の動きを見てチェックしてください。寝ている時やリラックスしているときに、お腹の動きを数えて、10秒の呼吸数×6、もしくは15秒の呼吸数×4で1分間の呼吸数を測りましょう。

1分間に30回以上の呼吸は肺水腫が存在している可能性が高いと言われています。正常は1分間に20回以下で、20~30回はグレーゾーンです。何度か時間を変えて測ってみて、常に30回を超えている場合は早めに動物病院へ受診しましょう。お家での呼吸数の測定は、客観性と信頼性の高いチェック項目として最近では非常に重視されています。

重度の症状

失神・倒れる

心拍出量の低下が重度になると、失神を起こして倒れてしまうことがあります。

失神は脳疾患による発作などと見極めがつきにくいですが、倒れたときに舌の色をチェックしてください。舌の色が白っぽかったり紫っぽい場合は、心臓からの失神の可能性が高いです。

心疾患からの発作は脳の低酸素によるものだと言われており、通常数秒から数分で回復することが多いです。ただし、これは重度の心不全を示唆する症状ですので、できるだけ早く動物病院へ行ってもらった方がいいでしょう。

呼吸状態の異常

僧帽弁閉鎖不全症で最も注意が必要なのが呼吸状態の異常です。いくつかの症状があるのですが、

  • 呼吸がずっと早い(1分間に60回以上)
  • 咳が止まらない
  • 咳をした時に鼻水や鼻血が出る
  • 口を開けて呼吸している
  • 舌の色が白いもしくは青っぽい
  • 犬座姿勢で脇を開いた体制を取っている
  • 横になれない

これらの症状は、命に関わる肺水腫を起こしている可能性が高く、緊急治療をしないと(緊急治療をしても)亡くなってしまう可能性がある状態だと思ってもらった方がいいでしょう。すぐに動物病院で酸素を嗅がせたり緊急薬の投与が必要な状態です。

  • 比較的重度の心不全を持っている犬
  • 1年以上動物病院へかかっていない高齢の小型犬
  • トリミングなどのストレスがかかった後

などに上のような症状が出る場合は、重度の肺水腫の可能性が高いです。

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次回は、僧帽弁閉鎖不全症の検査にどのようなものがあるのかご説明いたします。

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